骨粗鬆症について
現在、わが国は世界に類を見ないスピードで超高齢化社会に突入しています。平均寿命が伸び、2015年統計では60歳以上の人口は、総人口の33%を占めます。それに伴い骨粗鬆症の方は現在日本に1300万人と言われていますが、治療を受けているのは2割程度とされています。症状がなく気付かないため、骨折をしてから分かるケースも多いのが近年の特徴です。
骨粗鬆症とは
骨粗鬆症とは「骨がすかすかになり(骨の強度が低下し)、骨折しやすくなる」病気です。骨の強度には「骨密度」と「骨質」の2つの要素が関係しています。「骨密度」と「骨質」を改善することで、骨折を予防することが骨粗鬆症治療の目的になります。
骨粗鬆症は予防すべき疾患であり、特に痛みなどの症状のない人であっても、次の危険因子のある方は、一度は受診をお勧めします。
- 頻回の骨折歴
- 両親の大腿骨近位部骨折歴
- 喫煙される方、アルコールをたしなむ方(ビール換算で毎日コップ3杯以上)
- ステロイドを定期に服用している、あるいは過去に3ヶ月以上の服用歴のある方
- 関節リウマチ、糖尿病、甲状腺機能亢進症、45歳未満の早期閉経など、骨粗しょう症をまねく病気のある方
骨粗鬆症による骨折
とくに閉経後の女性で「最近、背中が曲がってきた」「背が縮んだ気がする」「原因なく腰が痛い」といったことはありませんか?
「歳をとったせい」と思われる方が多いですが、これらの症状は、単なる加齢のせいではないかもしれません。いくつか原因が考えられますが、骨粗しょう症による「いつのまにか骨折」が隠れている可能性があります。
25歳の頃の身長と比べて4cm以上低くなっている場合は、そうではない人と比べ、骨折する危険性が2倍以上高いという報告もあります。また、介護が必要になる人の8人に1人(11.2%)が「転倒・骨折」といわれています。
一般的に、骨粗鬆症に伴う骨折の起りやすい部位には特徴があり、50歳から60歳では手首(橈骨)の骨折が多いとされています。年齢が上がると、腕の付け根(上腕骨近位部)やせぼね(胸椎・腰椎)が増え、最終的には脚の付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)が起こり易くなってきます。大腿骨近位部骨折をきたすとほぼ100%に近いくらい手術適応になりますので、骨折が治っても機能障害が残り、歩行能力が低下することがしばしばです。
骨粗鬆症の診断
当院では、問診による痛みなどの症状、診察による理学的所見、各種検査(骨密度検査、血液検査・尿検査など)、などの結果から総合的に判断し、正確な診断を行っています。
- X線検査(胸腰椎2方向):隠れた圧迫骨折がないかどうか、骨変形・椎間板変性によって背骨が変形していないかどうか、などを判定します。
- 骨密度検査:当院では骨粗鬆症治療ガイドラインで推奨されている「腰椎・大腿骨を用いたDXA(デキサ)法」にて測定しています。
- 血液検査:骨代謝マーカーの検査は現在の骨粗鬆症の治療には必要不可欠なものです。骨代謝マーカーを調べることにより、骨の新陳代謝の異常がわかります。骨吸収を示す骨代謝マーカーの高い人は骨密度の低下速度が速いため、骨密度の値にかかわらず、骨折の危険性が高くなっています。これにより、あなたの骨の状態に最も適した薬剤を選択します。また、血液検査により骨粗鬆症以外の原因(骨髄腫など)を鑑別したりすることも可能です。
骨粗鬆症の治療
食事・運動・薬物療法が骨粗鬆症治療の3本柱です。
- 食事療法
- 食事は栄養バランスの良いもので、塩分や脂肪分の多い物は控えて下さい。カルシウムは食品として700~800mg/日以上を目標にし、カルシウムだけでなく、ビタミンDやビタミンKの摂取も心がけましょう。
カルシウム摂取が不足すると骨粗鬆症の原因となるだけでなく、血管などの組織にカルシウムが逆に増え、動脈硬化症・糖尿病・高血圧など様々な疾病が起こります。骨粗鬆症の患者さんでは動脈石灰化による冠状動脈疾患・心臓病が多くみられることはよく知られており、骨粗鬆症を予防すると同時に動脈硬化を防ぐためには、適切なカルシウム摂取と同時にカルシウム以外の骨代謝に必須の栄養素であるビタミンDやビタミンKの摂取が推奨されています。
骨粗鬆症の人が避けるべき食品は特にありませんが、カフェイン、アルコールなどの摂り過ぎには注意しましょう。過量のアルコールは、カルシウムの吸収を妨げたり、尿からのカルシウムの排泄量を増やしたりします。カフェインもまた、カルシウムの排泄を促します。 - 運動療法
- 骨は、運動をして負荷をかけることで増え、丈夫になります。さらに、筋肉を鍛えることで体をしっかり支えられるようになったり、バランス感覚が良くなったりし、ふらつきが無くなって転倒防止にもつながるため、運動療法は骨粗鬆症の治療に不可決です。
激しい運動をする必要はなく、散歩などは週に数回でも十分ですので、とにかく長く続けましょう。また脊椎の骨折を防ぐため、背筋を鍛える運動が効果的です。 - 薬物療法
- 薬による治療は検査結果をもとに、病気や身体状況を考慮して選択していきます。骨粗鬆症治療薬の分類としては、「骨吸収抑制薬」と「骨形成促進薬」に分けられ、その他に骨密度を上げるために補助的に併用するものも出てきております。薬の効果には個人差があり、副作用がでることもありますので、外来で定期的な検査を行いながら続けていくことが必要です。
骨吸収抑制薬 … ビスホスホネート製剤、SERM製剤、抗RANKLモノクローナル抗体製剤
骨形成促進薬 … PTH製剤(副甲状腺ホルモン)製剤
補助的な薬 … ビタミンD製剤、ビタミンK製剤など
よくある質問
- Q骨粗鬆症は 何歳くらいから気を付けたほうがいいですか?
- A女性の場合、閉経を機に骨密度が低下しますので、50歳を過ぎたら1度は骨密度検査を受けることをお勧めします。
- Q痛みがなくても治療は続けるべきですか?
- Aそもそも骨粗鬆症だけではほとんど痛みはありません。骨粗鬆症が原因で骨折をすることで痛みが生じます。骨折の治療をして改善すれば、痛みは徐々に減ってきますが、骨粗鬆症が改善しているわけではないので、次に骨折を起こす可能性は1度目よりもむしろ高くなります。ですから、1度骨折をした方は特に治療を継続することが必要です。
- Q骨粗鬆症になりやすい体質はありますか?
- A家族に骨粗鬆症の患者さんがいる場合は、骨粗鬆症になり易い体質であるといえますので注意が必要です。骨粗鬆症の発症には遺伝的要素が認められますが、それと同時に家族の間では食事の好みや運動量など、生活習慣が似ていることも大きく関わっているようです。また、やせ型の人や閉経の時期が早かった人なども骨粗鬆症になりやすい体質であることがわかっています。特に女性の骨は、ある時期まで女性ホルモンに守られていますが、閉経によりそのバリアが解けると骨も老化しやすくなります。若いころ、過激なダイエットをした人も骨粗鬆症のリスクが高まります。